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No.14 街と屋根
「甍の波と雲の波…」と唄われたように、昔はきれいな屋並みが、そこここに見られたのでしょう。
二〇世妃に入り、近代建築がこの屋根に一大変化をもたらしました。欧米を中心とした建築運動の中に「陸屋根」 いわゆるフラットルーフが登場し、欧米を手本とする日本もこの波に飲まれて、戦後はもっばら「陸屋根」の花盛りでした。
公団住宅から学校建築まで、全て屋根は平らでなければ建築にあらずの状況でした。 そして、昭和年代までは屋上に林立するテレビアンテナ、物干し、高架水槽が当然顔で幅を利かせていました。
中には物置やプレファブを乗せた姿が今でも見ることがあります。要するに、発案者達の意図とは裏腹に、屋上は物置と化したのです。 尾根の持つ本来の役割は雨から住空間を守ることにあります。従って雨水をうまく地上に逃がしてやることです。
その為には勾配尾根が合理的です。平らな屋根は防水上不利であり、難問です。
しかし、防水技術の発達がそれを可能にしてはいますが、その代償で照られる屋上利用が物置では悲しすぎませんか?。
人間の視点は街を歩くときだいたい1.5メートル乃至1.7メートルで、ビルの屋上は見えません。 しかし、たまに山の上から、ほかの高層ビルから見ればその「屋並み」は露呈します。 ここ一〇年位前から屋根の復権が多少始まりましたが、街全体としてみればまだまだの感じです。
政治、経済、文化の世界的動向はグローバル化と民族色の二極化の傾向にあります。 日本はいまその全ての点において民族色を失っているのではないでしょうか。 都市における美しい「日本の屋根」の復権にわわわれはもっと知恵と技術で努力する必要があると思います。
いま、日本の都市住宅はデベロッパーによるマンションとハウスメーカーの戸建住宅が大半を占めています。 そのデザインは良く言えばグローバル、悪く言えば無国籍なものです。 こうした物を求める市民の感覚にも問題なしとは言えません。
美意識が多様化しているのは事実ですが、日本の美の再認識を市民一人ひとりが考える時です。 街は時として俯瞰される意識を持たねばなりません。
ここ十年来地球温暖化が問題となり、都市のヒートアイランドも深刻です。そこで、「屋上緑化」が叫ばれています。 しかし、これとて苦肉の策で本来の物とは言えません。 都市の緑化比率を欧米並みに上げ、建物には美しい屋根を付け、俯瞰に耐えうる街の姿を取り戻す百年の計が今必要だと思いませんか?。
岩田 穣