スペシャル

新すまい考

台所、その変遷

 はるか昔、地球上に棲息する生物の中に、ヒョンな事から火をコントロールすることを憶えた種があった。


 火を手にした彼等は、森の中や洞窟の中で、常に火を中心に置き、少しの燃料を大切に使い(主として薪であり地域によっては家畜の乾燥糞や動物の脂肪であつたが)氷河期の寒さをしのぎ、生の獲物を加熱、保存食として飢えに備え、闇にうごめく食肉獣から身を守りながら、飛躍的な進歩を遂げていった。


 幾世代も経て住居が定着しても、火はその中心に置かれ火を育むカマドは、神の宿る場として崇められた。


 文化の発展によって、住居が形式化区画化されるに従いカマドは次第に暗く冷たい北側へと追いやられ、炊事を賄う女性と共に、長くつらい時代を過ごすのであるが、冷蔵庫などなかった時代、食料を保存するための知恵であったろうし、戦国の世など、御台所と呼ばれた女性の長は、男達を戦場に送ったあと、兵士の食料を確保補給しながら城を守ったというから偉いものであった。


 戦後、日本住宅公団は、住宅不足を解消すべく、少い坪数をいかに合理的に利用し、かつ侵食分離を計るかを考えたすえダイニングキッチンと称する台所と食事室を一つにした空間を生み出した。


 それは住居のほぼ中央にあり、玄関から寝室への通路を拡げ、一方の璧面に流し台とコンロ台を並べただけのものであったが、考えてみれば、これまで隅に追われていた、カマドの中央復権といえなくもない。


 初期のアメリカ製ホームドラマに見るキッチンの広さ、明るさに目を見はり、白い大きな冷蔵庫に憧れた日本の主婦達は、今、各社から発売され続ける多機能豪華を競うシステムキッチンの選択に戸惑っているようだ。


 一枚板大理石風力ウンタートップ、乾燥機付自動食器洗浄機、お料理教室ビデオ付収納システム等々。


 その割には、冷凍食品やレトルト食品など、どれも同じ様な味付の簡単調理食品市場は大盛況とか。システムキッチンの値段と料理の質は反比例していくようだ。


 せっかくのセットか汚れるから、といって出前を頼んだり、外食したりとか冗談のような本当の話を聞くにつけ外観にとらわれず、どうぞ御自分の手料理で、温たかい食卓を囲んでいただきたいと思う昨今ではある。


田辺

カット・高倉瑶子

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