スペシャル

新すまい考

納戸・押入

 日本家屋においては一つの座敷が寝室にもなりダイニングルームにもなり、居間にも、ある時は応接間にもなる。こうしたライフスタイルは生活のあらゆる局面に応じて必要とされる道具立てをあたかもドラエモンのポケットの様に次々と繰り出して来る便利な押入無くしては成りたたない。


 先進諸国の中で一番お粗末と言われている日本人の住まい。その質の指標のひとつが床面積だとすれば、その狭さを可能にさせているのが押入だということもできる。


 妙な誉め方になってしまった上に更に言うのは押入に気の毒なのだが、実は押入には効能ばかりでは無い事も考えておく必要がある。押入の前面には建具が付くが、部屋には外気に面する窓が必要であり更にその部屋に出入りする為の襖又はドアが必要である。そういった訳で部屋の廻りは建具だらけで壁が無い。物を置くには壁を背にして置きたいし、クーラーを取り付けるにも電灯のスイッチを付けるにも壁は要るのである。


 又押入に限らず収納全般に言える事だがその重要性を思う余り貴重な生活スペースを削り取って収納を設けた結果、不要なガラクタを溜め込む事となり肝心な家人は窮屈な暮しをしているのではつまらない。古新聞を置いておく為に三十センチメートル角の床面積を占めるとした場合、その部分のコストは建築費に土地代を加算するとだいたい十万円近い費用がかかることになる訳で不要な物を溜め込むという事は非常に贅沢な行為という事になる。


 さて押入の発生は桃山時代の茶室の勝手において茶の湯当日に使用する茶道具を組み合わせて置いておく棚、とありその後家財、寝具、その他雑具を収める空間へと転化して行ったと見られる。


 それ以前の住居における収納は納戸である。現在の納戸との相違点は寝室を兼ねていた事。すなわち古典文学に登場する塗籠(ねりごめ)である。納戸色=ブルー・グレーはこの場所のほの暗いイメージを暗示している。


 納戸は建築基準法上採光を要求されない部屋として貴重な存在であるが、農村の古い田の字型プランの民家の中心部にある布団部屋などは暗く温かな胎内回帰の願望に似た懐かしさと根源的なるものへの憧憬を思い起こさせてくれる。


小山 金子(一) 吉田

カット・高倉瑶子

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